突然何の話かと言うと、この1年くらい父の名義で残っていた土地を、国に引き渡す為の対応をしていまして、この度やっと手続きが完了したのです。
この件で使った制度を「相続土地国庫帰属制度」と言います。
この記事を先まで読む人は、すでに土地の継承・維持に課題がある人だけかもしれません。土地を手放したいけど全然売れそうにない。資産価値はないし立地も良くなくて相続する意味も無さそうとか。
今回は経験を元にある程度の情報は書いてみたものの、制度の詳しい内容を解説した訳ではありません。
もし制度利用を検討してみたいと言う方は、まず法務省の「相続土地国庫帰属制度」HPを調べてください。その後は法務局で相談したり、司法書士や土地家屋調査士に相談してみるのも良いでしょう。
大事なことを先に書いておきますが、土地を国に引き渡すには想像以上にお金がかかります。決して国がタダで引き取ってくれる訳ではないし、土地の状態によっては審査を受ける条件を満たすにもお金がかかります。そもそも承認可否に関わらず審査を受けるだけでもお金がかかります。だからたとえお金がかかっても土地を手放したい人でないと、制度の有効利用は難しいかもしれません。かかる金額は個別の事情により大きく異なるでしょう。
なにしろ慣れない事ばかりでした。文章で説明すると解りにくいことも多いと思われますから、できるだけ簡潔に箇条書きも使って説明しますが、それでも長くなってしまいました。
※令和5年4月27日から始まった新しい制度です。情報はこの記事の執筆時点になります。
実際に制度利用を検討されている方は、ブログ主が知らないうちに法務省のホームページ(HP)が更新されていて、記事中のリンクの情報が古くなっている可能性もありますので、念の為法務省HPのトップページから「家族・財産」→「家・土地の購入・相続(登記)」のページに進み、関連するトピックスの確認をお勧めします。
法務省ホームページのトップページ抜粋

制度利用に至った経緯
- 亡くなった父の名義で某所に土地を所有している事が発覚。(地目は原野)
- 土地(固定資産)の評価額はないに等しく、固定資産税が非課税になるレベル。
- 場所もあまり良くないので、誰かがこの土地を買う期待も薄い。
- このままこの土地を維持・相続していくのは、後を担う世代に荷物の押し付けではないか?(というか、俺も後の世代なんだが・・高齢の母では対応無理なので代わりに進めるしかないじゃない。つまりこの件は俺で終わりにしたい)
さて、どうしよう・・・(対応方法について詳しく調べ始める)
- 令和6年4月1日より相続登記の申請が義務化されている。(ほったらかしはNG)
- 相続と土地を国に渡す事をまとめて手続き可能な「相続土地国庫帰属制度」を知る。
相続と引渡しをまとめて?どう言うこと?? と思うかもしれませんが、この制度だと僕の場合「承認申請者(土地を相続する人)は母となるが、父から母への相続・名義変更手続きは申請者で行わず、そのまま国に引き渡す」と言う事です。(のちに法務局が何らかの登記変更はすると思います)
僕の立場は「高齢である母(承認申請者)の代わりに、申請をサポートする者」として、実務を行います。
ちなみに相続済みで所有者変更の必要がない方は勿論申請するのに問題ありません。土地を複数人で共有されている場合でも申請方法があるので大丈夫です。
制度を利用するには何をするのか?
相続土地国庫帰属制度を申請するには、何をするのか簡潔に言うと・・・
- 申請書を作成して、申請料(収入印紙14,000円)と共に提出。
- 承認されたら負担金を支払う。(金額は土地地目や面積等で異なる。原野だと一律20万円)
これだけだと漠然としていて、まだまだ「ん〜?それでどうすればいいの?負担金って何さ?」 となりますよね。
申請書はペラっと1枚ではなく、申請書の本文6ページと土地の詳細な報告書を数ページ添付します。つまり申請書を作成するまでが一番大変です。
まずは法務省の冊子をよく読む
- 制度の意図・内容と手続き全体の流れを知る。(最初は概要だけでもOK)
- 自分のケースではどんな申請内容や手続きが必要か知る。
ここからスタートです。冊子を読めばわかる事は、できるだけ記事を省略します。
法務局と相談する
国庫帰属制度の冊子を閲覧したり、自宅のパソコン等で得られる情報は得たものの、申請書の作成をする為に具体的に何をすれば良いのか、自分のケースではあと何が足りないのか、まだまだわからない事がたくさんありますので・・・
(法務省)法務局で相談する。これが一番ゴールへの近道です。
- Web対応も可能。
- 直接面談する場合は地方法務局の本局へ行く。(支局では対応していません)
- 最初は自宅に近い法務局本局でも構いません。
- 相談はHPから予約する。
僕は該当の土地が遠方だったので、自宅に一番近い横浜地方法務局まで行って直接相談しました(2回)。最初は直接会って話をした方が円滑だと思いますよ。とても丁寧に説明してくれました。
最終的には土地の管轄の法務局とWeb面談(ビデオ会議)で申請書の詳細調整しました。(2回)
担当の方も登記情報など調べてから面談してくれますが、自分の理解促進も兼ねて、なるべく冊子で予習しておいた方が話がスムーズです。全く予習なしで行くと、説明されても理解が追いつかないかもしれません。と言っても早めに状況理解した方がいいので「よく分からないけど、とにかく相談したい」でも対応してくれますよ。
どうせ一度に全ては理解しきれないので、最初は最も知りたい事に集中した方がいいかもしれません。
僕は土地を一度も見た事がなかったし、古い資料しか手元に残っていなかったので・・
- 土地の立地や周辺の情報を見ておく。(Google Mapの航空写真やストリートビューなど)
- MAPPLE法務局地図ビューアで土地の正確な地図を見ておく。(ログインしなくても住所で検索すれば地図は見れます)
- 登記情報サービス 有料ですが、僕はここで最新の登記情報を確認しました。ちょっと操作が解りにくいですけど、正規の登記情報がネット上で入手できます。登記情報(土地全部事項)や図面は各所との打合せや後々資料作成時にも持ってた方がいいので、自分で申請書作る場合は取得しておいた方がいいです。(法務局に依頼するでも可)
僕は上記を印刷したりコピーを準備して面談に臨みました。
繰り返しになりますが、あんまり準備に時間がかかるなら、1回目の面談は「どうすればいいか分からなくて・・まずは概要が知りたいです」でいいと思いますよ。
面談は何度でも受けられますが、面談で申請書の内容に不備がないことを確認できるまで相談を繰り返します。
申請書に必要な情報・書類を揃える
法務局との面談の結果、現地の状況を示す写真付きの資料の作成が最も大変だと分かりました。もっと具体的に言うと、土地の境界が、杭や目印等で明確に、写真付きで、登記図面とも合致していることを、示せる事です。もし境界点や境界の目印が無ければ、新たに設置するしかありません。
あと相続情報(他に相続の権利を有する者がいないか)が重要なので、戸籍も最低祖父の代まで遡って入手しなければなりませんでした。
当然近隣とのトラブルや自治体による開発計画など、国が引き取るのに障害となる要因がないことも重要です。
全て外注で依頼するか、自分で出来ないことだけ外注するか?
この時点で先に進むとすれば、忙しい人は「これは大変だ、時間も知識も無いし誰かに依頼したい・・」と思うでしょう。申請書作成から依頼したい場合は、司法書士に相談してみてください。但し、制度ができてから間もないので、経験のある司法書士に巡り会えるとは限りません。また土地の調査は土地家屋調査士に依頼する事になります。(両方兼ねている業者さんもある)
申請書の作成は土地の現況調査が必須となるので、余程馴染みの業者でもいない限り現地に近い業者を探す事になりますが、全部依頼するなら対応してくれる司法書士さんを根気強く探してください。その場合は土地家屋調査士さんもセットでお願いした方がいいです。
業者を別々に依頼する場合は、最低でもプロ対プロで話ができる様に業者間の連携をお願いしてください。たぶん素人が間に入っての伝言ゲームは、理解が追いつかず板挟みになるので無理です。
自分で申請書を作成するなら
申請書だけでも自分で作る場合は、色々手間も時間もかかりますが費用は抑えられるでしょう。
但しパソコンが使えることが前提です。Web上で検索して調査したり、ExcelやWord等で冊子の見本のような写真付きの資料が作れるスキルは必要です。
あと僕の場合プリント等は、A4のコピー・印刷は自宅のプリンター(スキャナー付きの複合機)、A3はコンビニでコピー・印刷(パソコンのデータをスマホのコンビニ印刷アプリに入れる)で対応しました。
終わった今だから言えますが、よく分からない分野のことを業者や役所と調整しつつ、自分で申請書作って進めるのはかなり大変です。(大変でしたが出来たから良しとしよう😆)
土地家屋調査士に現地調査と測量を依頼
該当の土地は原野であり土地勘もない場所ということで、現地に近い土地家屋調査士に現地調査と測量(新たに測量と新規境界点の設置)を依頼し、申請書は自分で作る事にしました。(相談から発注するまで業者さんとのやり取りは色々ありましたが省略します)
土地家屋調査士さんを探すのは、各都道府県に土地家屋調査士会がある様なので、そこのHPから検索しました。
ちなみに、仕事を先に進めるには登記されている土地図面が存在することが前提です。その図面を元に再測量と境界点設置を行いました。土地家屋調査士さんも独自に入手してくれます。
住宅地などで既に境界点が明確になっている土地であれば、測量までしなくても資料作成できるかもしれません。まずは現地調査で必要な事の洗い出しをして貰いましょう。これをやらないと見積もり金額も決まりませんので。
かなり大事なのは、申請書用に境界点と周囲の状況がよく見える写真を準備する事です。使いにくい写真ばかりだと後で苦労しますから、冊子の見本を参考に撮影者(業者さん もしくは 自分)と事前確認してください。境界点の番号を記載したボードと一緒に撮影すると、後で判りやすい写真になりますよ。
※資料の写真で遠景写真を入れる必要ありますが、遠景を撮影できる環境になかったのでWebで見れる航空写真で代用しました。
※法務局の担当者さん曰く「山を丸ごと引き取ってほしい」と言う依頼もあったそうですが、範囲が漠然としすぎていて境界の特定が不可能な土地は断るしかなかったそうです。
今回は作業終了後に現地に行って、土地家屋調査士さんと一緒に土地と作業完了状態を確認しました。また自分でも写真撮影を行いました。これをしっかりやったおかげで現地の状況がよく理解できたので、資料作成や法務局との申請内容調整、後述の是正作業にも大いに役立ったと思います。
相続関係や戸籍関係、その他の添付書類を揃える
土地引渡しの前に、まずは相続が正しい情報である証拠を揃えなければなりません。何が必要かは冊子にも書いてありますが、解りにくいし個別の事情で異なりますから法務局と相談した方がいいです。
僕の場合は登記上の土地所有者(父)が他界してそのまま相続されてない土地でしたから・・
- 遺言書 もしくは 遺産分割協議書(無ければ遺産分割協議書を新たに作成でも可)
- 印鑑証明(遺産分割協議書に載っている相続人全員分)
- 戸籍の全部事項証明書(土地所有者と承認申請者の戸籍謄本)
- 戸籍の個人事項証明書(遺産分割協議書の相続人で、上記3.に掲載されていない方の戸籍抄本)
- 土地所有者 及び 先代(僕から見れば祖父)の改製原戸籍
これで相続人は間違いないか? 他に相続の権利を有する者がいないか? を法務局が確認するのです。相続は間違えると揉めるから法務局も慎重です。どうせ所有権が国になるからといって、いい加減にはできないという事です。
さらに面倒臭いことに、登記されている土地所有者の住所が古くて、既に住民票や戸籍など公の書類では出てこない番地になっていました。なので、もうこの住所・番地には住民票も戸籍も無く履歴も追えないことを証明しなければいけません。
対応としては、下記を役所の戸籍課に聞けば発行してもらえます。
- 不在籍証明
- 不在住証明
それから、土地に関する書類として下記を入手してください。
- 登記情報(土地全部事項、図面):承認申請書作成に使う情報
- 固定資産評価証明書(固定資産評価通知書):添付資料として提出
- 土地の登記済権利証(いわゆる権利証):添付資料として提出(無くても大丈夫でした)
何が必要かの理解も十分でなかったので揃えるまでがエラい面倒臭かったのですが、法務局や土地家屋調査士さんにも相談しながら進めました。プロの助力は必要です。
申請書の作成と提出
まずは承認申請書の本文を記載します。
- 専用の書式に冊子の見本を見ながら記載すれば特に難しくありません。
- チェック項目は分からなければ、法務局に聞けば大丈夫。
- 僕の場合は承認申請者(母)の代わりに対応する者(僕)として、理由と連絡先を見本と同様に記載しました。
面倒なのは添付書類の図面や写真です。基本的には見本を真似すれば大丈夫ですが、
- 境界点は図面に対してどのポイントなのか。
- 境界標の材質は何か。
- 境界点から次の境界点向けて写真上に線を引く。
など1境界点ずつ記載していきます。単純に4点で囲われた四角い土地ならまだいいのですが、境界点が多いほど資料作成の手間が増えます。
これを法務局からOK貰えるまで修正するのですが(修正だけなら面談でなくメールでやり取りも可)、逆に言うと、法務局の担当者さんからOK貰えれば、かなり承認に近づいたとも言えます。
その他書類を含めてOK貰えたら、申請料14,000円分の収入印紙を貼って、書留かレターパックプラス(赤い方)にて管轄の法務局に送ります。
承認までは書類確認や担当の現地確認などでかなり時間がかかりますが、僕の場合は現地が降雪地域だったので、雪解け後の審査・現場確認開始でした。
提出から半年以上かかると思ってください。法務局も安易なことは言えないので、時間がかかると言います。あと登記関係は法務局の仕事ですが、土地は国有財産になるので財務局の管轄になる。だから尚更承認まで時間を要するのかと思う。
法務局 現地確認後の是正
土地から伸びた樹木の枝が電線に掛かっていたり、境界内にゴミが落ちていたり承認に問題があると是正を求められます。
これは審査前にわかっていた事ですが、審査まで時間がかかると言う事もあり先に対処してしまうと、審査前にゴミを不法投棄されてしまう可能性があったり、そもそも不承認になる要因が見つかったり、対処が無駄になる可能性があったので、現地確認審査後に指摘されるまでそのまま残しておきました。
是正内容によってここでも対処する為のお金が掛かってしまいますが、最後にこれさえ対応してしまえば、あとは審査結果を待つばかりです。(この段階で他に懸念がなかったとしても、承認が保証されている訳ではありませんので、念の為・・・)
※是正内容は書面で来る訳ではなく電話でした。電話だと漠然としたやり取りにしかならないので、合否ラインをよく確認してください。
結局は測量を依頼した土地家屋調査士さんに樹木伐採やゴミ処分も依頼して、法務局の担当者さんと直接詳細を話して貰ってから作業進めました。僕は現地をすぐ見れる場所に住んでないし、素人を中間に挟んだ伝達は混乱するのでやめた方がいいです。お願いできるところは頼んでしまいましょう。
承認と負担金の支払い
承認されると承認申請者に「決定兼負担金額通知書」と「国庫金 納入通知書」が郵送されてきます。
これで土地の国庫帰属が承認された訳ですが、最後に負担金を金融機関に支払うまで国庫帰属は確定しません。負担金とはなんぞや?は冊子を読んでください。
負担金が納付された時点で、土地の所有権が国に移転します。
おわりに
自分で調査を開始してから負担金を支払うまで1年かかりました。
今回の費用は100万円ぐらいかかっていますが、個別の状況で全く異なりますから、この値段ありきで考えないで下さい。もっと全然安く済む場合も高くなる場合もあり得ます。
たまたま僕がこの件に時間を割ける状況だったので余裕を持って対応できましたが、忙しい人は大変だと思う。
そうは言っても、土地を手放したいけど買い手もいなくて困っている方は意外と多い様なので、より手続きをスムーズに行なえるように制度の改正など進めて欲しいなと思います。
あまり事情に詳しくないので想像ですが、今後の日本の状況を考えると、日本中に所有者不明の土地や空き家問題などが急増する懸念があるし(もう急増してる?)、「一族の誰も認識していないのに、末裔の誰かに相続権が残っている」という事態は実は多いのかもしれない。そうなると土地や建物は中途半端な状態で荒廃するばかりだし(原生林に還るならともかく・・)、安く土地が手に入るなら検討したいと言う人がいても、そもそも不動産市場に出てこないという事も多々ありそうですね。
それにしても滅多にない経験ができました。こんなの一生に1度だと思うけど、こんな記事でも誰かの参考になれば嬉しいです。